ステンレスとチタンの腕時計について

      2016/05/19

腕時計は圧倒的にステンレス製が多いです。
いわゆる貴族的な人がつける腕時計はイエローゴールド、ホワイトゴールド、ピンクゴールド、プラチナなどの貴金属が使われますが、普及用はステンレスです。まれに真鍮もありますが。
チタンの腕時計も、ちらほら見かけます。チタンという材料、身の回りで見かけますが、実は恐ろしく高い素材です。貴金属ほどではないですけど。
チタンは非常に優れた材料です。製錬と加工が容易にできるようになれば、鉄とかステンレスなんて消え去ると思います。
にもかかわらず、チタン時計の扱いがあまりに不遇過ぎます。素材の単価としては圧倒的に安いアルミニウムの時計とほぼ同列だったりする・・・。
ということで、各種物理定数を見ながら、チタン腕時計の優劣を考えてみたいと思います。
まず、チタンですが、純チタン、チタン合金と、色々あります。チタン合金には、α合金、α-β合金、β合金と分類が分かれます。それぞれ全然性質が違います。腕時計には純チタンが用いられる場合がほとんどです。ここでは最も一般的なJIS純チタン2種を挙げます(ASTMだとGrade2相当)。
ステンレスは、フェライト系、オーステナイト系、マルテンサイト系、オーステナイト・フェライト(2相)系ステンレス、とあります。これも全然性質が違いますが、ここでは、時計で最も多く使われて居るであろうと思われるSUS316L(オーステナイト系)を挙げます。
表 純チタン2種とSUS316の各種物理定数(常温。数値はだいたいです)
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・磁性
 両者共に、磁性はありません。チタンは合金でも磁性を持ちません。ステンレスはオーステナイト系のみ、磁性を持ちません。
時計(特に機械式)は細かな部品が動くことによって正確な時を刻むため、ケースが磁性ありだと危険です。ここは両者引き分けです。
・密度
 圧倒的にチタンが軽いです。同じ形状なら、チタンはステンレスの約60%の重量です。
・熱伝導率・比熱・熱容量・熱膨張率
 熱伝導率と比熱はステンレス、チタンほぼ同等です。これは、鉄と比較するとかなり小さいです。つまり、鉄をつかむとヒンヤリしますが、チタン・ステンレスは手の熱を奪いにくいのでヒンヤリ感がかなり少ないです。(本来は熱伝達率で話をするべきですが、熱伝達率は物性値ではないため資料がありません(肌と金属間の値が見つからなかった)。ヌッセルト数とかの無次元数が出てくる移動現象論の話になり、しかも空気の対流、肌と金属表面の粗さとか、色々と複雑化しすぎるのでここでは熱伝導率使ってますが、熱伝導率が低ければ接触部の温度上昇(熱を奪う=分子の熱運動の移動)も少ないはずなので、考察としては的外れではないと思います。実際、チタンもステンレスも、鉄と比較すると触ったときヒンヤリ感少ないです。)
熱容量はチタンがステンレスの約60%です。時計を手につけたとき、チタンのほうが早くヒンヤリ感が消えます。
熱膨張係数はチタンがステンレスの約50%です。つまり、チタンのほうが温度差で収縮しにくいです。冬などは気温と体温の差が30℃を超える事が多々あるため、チタンのほうが歪みにくく、精度も向上します(ケースの膨張でも内部に影響あるはず)。
・硬さ
 ステンレスがチタンの2倍のビッカース硬さです。つまり、ステンレスのほうがキズが付きにくいです。ですが、硬いほど割れやすいため、大きな力を加えると、チタンなら歪むだけですが、ステンレスは割れます。
・引張強さ・耐力
 引張強さはほぼ同等です。同じ力で引っ張ると、どちらも同じ程度の力で破壊します。耐力とは、力を加えて変形させたとき、その変形が元に戻らなくなる力です(0.2%の永久歪みが残る応力)。以上、とJIS規格では曖昧ですが、チタンのほうがやや優れています。
・ヤング率・ポアソン比
 ヤング率とは、力を加えたときの変形のしやすさです(単位歪みあたりの応力)。ステンレスのほうが変形しにくいです。ポアソン比とは、引っ張ったときのくびれの出来やすさ(横歪み/縦歪み)です。チタンのほうが、くびれにくいです。
こうやって比較検討すると、両者ほぼ互角と言っても良いのではないでしょうか。時計が破壊されるような力がかかることを前提としないと、軽さを選ぶならチタン、傷つきにくさを選ぶならステンレスでしょうか。
・ステンレスは金属アレルギーが出ますが、チタンは生体適合性が高いため出ません。
・ステンレスは海水や汗などで腐食されますが、チタンは腐食されません。というか、チタンはまず錆びません。
・ステンレスよりもチタンのほうが音響特性に優れているため、ムーブメントのチコチコという音が良く聞こえます(ヤング率/密度 = 音の伝播速度が速い = 良く音が伝わる)。
と、ちょっとチタンを推してみました。ここまで優れているにもかかわらず、チタンが時計に採用されない致命的な理由が。
鏡面仕上げにした際の「色」なんです。
分類上、どちらも色は「銀白色」なんですが、チタンはステンレスよりも灰色をしています。ステンレスのほうが見た目がホワイトゴールドっぽいんですね。鏡面性状は互角といっていいと思います。
持ち歩く時計は、懐中時計から始まっていますが、そもそもそういった物は貴族が持ち歩く宝飾品だった経緯もあり、元々は金・銀・白金で作るのが当たり前。それを考えると、石ころに近い色をしているチタンは圧倒的に発色が不利です。
ですが、チタンは表面の酸化被膜をコントロールすることによって、様々な色が出せます。レインボーにすることも出来ます。そういった意味合いで、色のコントロールでは優位性は高いです、が、高級感は出ません・・・。安っぽいですよね。チタンのカラーコントロールはため息が出るほど美しいんですが・・・。
あと、重たいことによる高級感、ってのもステンレスにはあるそうで、そういう意味でもステンレスはチタンより重宝されているようです。何でも小型軽量化しようとするのって日本だけですからね・・・。
チタン時計が不遇なのは、このような事情があるようです。
ちなみに、腕時計の金属部分表面にコーティングなどの処理は普通行いません。そんなことしていたら、オーバーホール時に研磨できなくなりますよね。
基本的に表面を硬化させたい場合は、鍛造である程度形成した後の熱処理にて表面だけ硬度を上げる処理をします。
チタンが大好きなので、チタン時計が何で安いんだコノヤローヽ(`Д´)ノ とか思ってましたが、色々な事情があるようで・・・。
そんな私もチタン時計はクォーツでしか持ってません・・・。機械式は全部ステンレス・・・w

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