写真の要素(撮影時編)
2016/05/22
日曜日に撮ったフィルムの現像が終わってなく載せる写真も無いので、二年ほど写真やカメラについて勉強して理解したことを綴って行きます。
普段からフルマニュアルのカメラを使っていたり、昔から写真をやっている方には「何を当たり前の事を言っているんだ」と思われるかもしれませんが、現行の殆どのカメラが何かしらのオート機能を前提に動いているのを考えるときちんと文章にするのも復習含め大切かなと。
1.絵作りに効く要素
まずはシャッター時に残るJPEG・RAWデータに効いてくる項目を列挙します。
後に詳しく説明します。
1)撮影後に修正の効かないもの
(1)ピント位置
当たり前すぎますが、ズレるとピンボケ写真です。
Leica M + Nokton 50mm F1.1 VM
目測ノーファインダーで撮ったのでカバンにピントが来てしまい被写体がボケた。
こういうのをピンボケ写真と言いますw
(2)絞り
レンズの取り込む光の量を調節します。
ボケ具合はここで制御します。
ピントと並び、最も絵に影響を与えます。
F1.4 F2.0 F2.8 F4.0 F5.6とかいうアレです。
(3)シャッタースピード
センサー・フィルムに光を与える時間を決めます。
手ブレ、被写体のブレに影響を与えます。
(4)感度
センサー・フィルムのISO感度です。
ノイズや粒子感に影響を与えます。
(2)~(4)の3要素のバランスが崩れると暗めに写ったり(アンダー)、明るめに写ったり(オーバー)します。
撮影時、常に気を使う最重要パラメーターであります。
Leica M9 + Summilux 50mm F1.4 ASPH.
ピント位置をあえてアンダー気味にするのも撮影意図の一つです。
Leica M + Summilux 50mm F1.4 ASPH.
完全マニュアル露出ですが白飛びせず、黒潰れせず取れました。デジタルカメラで感露出は辛いですがとっさの時は訓練された感が活きてベストショットを生むこともあります。
2)撮影後に修正が効いたり効かなかったりするもの
(1)フィルター
レンズの先っちょに付けるアレです。
レンズに入る光を変質させます。
撮影後に修正が効かない代表は偏光(PL)フィルターです。
Leica M + Vario-Sonnar 35-135mm F3.3-3.5 YC
反射した水面はデジタル処理でなんともならない。PLフィルター付きでしたら水中が写り込んだでしょう。
3)撮影後も修正が楽なもの
(1)ホワイトバランス
太陽光、蛍光灯、白熱電球、光源が変わると色味が変わります。
人間の脳は目の見た色調を脳内補正してますがカメラはそのまま写します。
2.要素の説明
中身を作例を踏まえ詳細に説明します。
眠くなるかも。
(1)ピント位置
ピントは一面にしかあいません。
正確に書くと、球面にピントピークが来て、その前後になだらかにボケます。
Leica M + Summilux 50mm F1.4 ASPH. 絞りF1.4
顔にピントが来てその前後がボケています。手前のほうが距離に対してボケが大きいのがお分かりいただけるかと。
ピーク位置は面なので厚みは無く、本当に正確なピント位置は厚さ無しの中空球の断表面となります。
面積無しの点光源にピントを合わせると、面積の無い点に写ります。
その前後にピントをズラすと、点光源はボケて面積を持つ円になります。
Leica M + Summilux 50mm F1.4 ASPH 絞りF4.0
点光源が大きくボケています。コンペイトウ型なのは絞り羽の形状がそのまま写りに影響しています。
昔のレンズは当たり前のように被写界深度目盛が着いていました。
今はレンジファインダー用レンズとPENTAXのレンズくらいにしかついていないかも。
被写界深度目盛はセンサーやフィルムの画素・粒子の大きさによって決められています。
ある程度ボケて輪郭が膨らんでも感知できないであろうという範囲です。
点光源がボケて出来る円を許容錯乱円と言いますが、センサーの画素・フィルムの粒子がこの円より大きければピンボケに見えません。
最近はセンサーの大型化・フィルム粒子の微細化が進み、被写界深度目盛がかなりあてになりません。
等倍で見たり引き伸ばしたりしなければ気になりませんが、神経質な人は正確にピント合わせをした方が良いです。
Leica M + Summicron 50mm F2.0 Collapsible L 絞りF2.0 (100%クロップ)
60年前のレンズなのに1ピクセル単位で輪郭がボケず解像しているのがお分かりいただけるでしょうか。
許容錯乱円がセンサー画素の大きさを超えると輪郭が滲みます。
ちなみに「被写"体"深度」では無く「被写"界"深度」です。
焦点深度と被写界深度も全く別の物です。
焦点深度はレンズ後端からセンサー・フィルム面の深度、被写界深度はレンズ先端から被写体への深度です。
間違えてる人が多いので一応。
(2)絞り
ボケに大きく効きます。
Leica M + Nokton 50mm F1.1 VM 絞りF1.1
標準レンズ50mmでもF1.1の開放だとここまでボケる。
Leica M + Nokton 50mm F1.1 VM 絞りF4.0
何故絞るとボケが緩くなる=許容錯乱円が小さくなるかはレンズと絞りの図解をすれば簡単にわかります。
めんどくさいので図示しませんがググるとすぐ出ます。
ボケは同じF値でも焦点距離が長い=望遠ほど強くなり、焦点距離が短い=広角ほど弱くなります。
これも簡単なレンズの図示で説明できます。
Leica M + Biogon 28mm F2.8 ZM 絞りF4.0
かなりの近接撮影+目測ピントなのに画面の殆どにピントが来ている。広角レンズ+そこそこ絞ったおかげです。
同じレンズ口径でも焦点距離が長くなるほどF値は低くなります。
望遠レンズがロケットランチャーみたいな大砲型になる理由はこれ。
これも簡単な(略
ズームレンズで広角から望遠までで開放F値が変わる物があるのもそのためです。
被写体への距離が短くなるほどボケが大きくなります。被写体への距離が遠くなるほどボケにくくなります。
ボケは手前のほうが大きく、奥のほうが小さくなります。
(3)シャッタースピード
手ブレに大きく影響します。被写体が動いている場合、被写体のブレにも影響します。
1/レンズの焦点距離mm、つまり50mmのレンズでしたら1/50≒1/60くらいが手ブレを感じさせない絵を撮れる限界と言われています。
手ぶれ補正付きレンズですともう2EVほど遅いシャッタースピード=1/12.5≒1/15で撮れます。これは手ぶれ補正の性能次第です。
Leica M + Summicron 50mm F2.0 ASPH
あえてブレた作品を作る。手ブレやピンぼけはモノクロ化して粒子感を押し出すと生き生きとした絵に生まれ変わる可能性が。
手ブレ以外では絵に影響が出にくいですが、被写体が動いている場合(スポーツ写真とか)には大きな影響が出ます。
動きの一瞬を止めて撮りたいなら早く、被写体をブレさせて動いていることを表現したい(野球バッターのバットスイングがブレてる)場合などは調整が必要です。
走っている車を止めて背景が流れているように取る、いわゆる流し撮りっていうやつにも顕著に影響します。
最近の手ぶれ補正レンズは流し撮り時に、移動方向だけの手ぶれ補正を止めてもう一軸の補正だけを動作させたりするのを自動検知で行います。ハイテクです。
噴水や滝などで流水の粒を止めて撮りたいのか、霧のように流れているように撮りたいのか、シャッタースピード次第で絵の意図が著しく変わります。
Leica M + Vario-Sonnar 35-135mm F3.3-3.5 YC
移動するエスカレーターに乗りシャッタースピードを手持ち限界まで遅くして撮りました。
壁面が流れているのがわかるでしょうか?
極端に明るい日中の日向ではシャッタースピード最速で足らない、夜間は遅すぎて手ブレが止められないなど、環境で調整することが多くなる要素です。
(4)感度
ISOで表記します。一般的に、100、200、400、800、1600、3200、6400、12800、など倍数系が使われることが多いです。
かつてのASA(あーさ)がISO(あいえすおー、いそ、あいそ)に移管されました。ドイツカメラだとDINが使われることも多いです。
ちなみにPDFファイルは2008年にアドビからISOに移管したって知ってました?
感度が増すほど暗い場所に強いです。つまりシャッタースピードが稼げて手ブレを押さえやすくなります。
その背反としてデジタルカメラだとノイズ、フィルムだと粒子性が悪くなります。
ノイジーな絵になるということです。フィルムだとそのノイジーな粒子感をあえて作風として出すことが出来ますがデジタルだと高感度のノイズはいかにも”ノイズ”って感じになってくるので高感度を活かした作品は作りにくくなってます。
Leica M + Color-Heliar 75mm F2.5 L 絞りF2.8 ISO3200
ライカMは高感度に弱いのでISO3200でもノイズが多いです。手前譜面台はかなり黒潰れしており引っ張りあげたらデジタルらしい汚いノイズが発生しました。
Leica M9 + Summicron 50mm F2.0 4th 絞りF2.0 ISO600
ライカM9だとISO600でノイズバリバリ。でもこれはモノクロ化するとフィルムの粒子っぽくなるのでアリだとおもいました。
日中屋外でISO100、日中屋内でISO400、夜間屋内でISO400~600、夜間屋外はISO400~800くらいが目安です。
レンズのF値と手ぶれ補正の有無に大きく左右されますが、感度を上げずに済むのであれば極力上げないほうが良いです。
(2)絞り、(3)シャッタースピード、(4)感度の3つはシャッターチャンスを探しながら移動する際、常に調整するべき項目です。
感度固定で、絞りを自分で決め、ピントを合わせてそれに最適なシャッタースピードだけオート、という「絞り優先AE」というモードが殆どのカメラにあります。
これが撮影の要素を極力自分で決め、微調整だけカメラに任せる非常に便利な機能です。
(5)フィルター
かつてはスカイライト(風景向け)やUVフィルター(人物向け)が多く使われましたが今はレンズ前玉保護のためだけに内乱反射防止のコーティングをされた保護フィルターを使う人が多いかと思います。
色味やコントラストの調整がPhotoshopなどの普及で簡単に出来るため、撮影時にフィルターで入射光にエフェクトを付ける必要が無くなりました。
保護フィルター以外で今でも多く使われるフィルターは円偏光フィルター(PLフィルター)くらいです。
釣りする人のしてるサングラスも円偏光フィルターが付いていて、水面などの反射を写り込まなく出来ます。色々な方向を向いている水面の光(縦波の電磁波)の乱反射を、スリットを使って通さないようにするという高校物理的な便利フィルターです。
Leica IIIc + Summicron 50mm F2.0 Collapsible L + Kodak ULTRAMAX400
円偏光フィルターを付けていないので水たまり水面が反射しています。使用すれば反射が消えます。
次点で、純粋に取り込む光の量を減らすNDフィルターでしょうか。日中にあえてレンズの絞りを開き、大きなボケを得るような撮影に使います。
モノクロ写真ではコントラストの具合を調整するために、黄色(モノクロ用のスタンダードなフィルター)、オレンジ、緑、赤、青など様々なものが使われます。
光量が減るのでマニュアル露出だと撮影難易度が上がります。
内蔵露出計や絞り優先AEが欲しくなります。
Leica M4BP + Summilux 50mm F1.4 + lomography100 Silver Efex Pro2で青色フィルターシミューレーション
青色フィルターを使うと極端なコントラストが付きます。人の肌はかなり黒く潰れます。
Leica M6TTL + Hektor 135mm F4.5 M + Neopan Across100 +赤フィルター
空が極端に落ち雲が強調される。赤フィルターならではのハイコントラスト絵です。
最近ではモノクロ用カラーフィルターはパソコン上での処理で再現できるため、あえて撮影時のJPEG・RAW焼付けで後の選択肢を減らす必要が無いので使わない人が多いと思います。
でも、ライカMモノクロームではRAWにカラー情報が無いのでパソコン上でカラーフィルターシミュレーションが出来ません。未だにモノクロ用フィルターが有効です。
(6)ホワイトバランス
青みがかったり黄色みがかったりするのを調整するのがホワイトバランスです。
Leica M + Summilux 50mm F1.4 ASPH. ホワイトバランスオート、Lightroom微調整
電球の独特な黄色味をあえて強調する側に調整してます。
フィルムだと、屋外の日光用、蛍光灯用などホワイトバランス調整されたものが売られています(いました、かも。もう使いわけ出来るほど種類がない。)。
デジタルカメラだと環境をセンサーで感知し自動で調整というのが多いです。
K(ケルビン)という色温度で表現しますが、日光、蛍光灯、白熱電球などでバランスが変わります。
デジタルカメラのオート調整で一番当てにならない機能かもしれません。スタジオ撮影などでは手動設定がベストでしょう。
パソコン上で絵に破綻なく一番調整しやすいパラメーターなので無頓着になりがちです。
WBを調整する位ならばISO感度の調整の回数を増やすほうが良いかもしれません。
Leica M9 +Ultra-Wide Heliar 12mm F5.6 VM ホワイトバランス未調整
コシナのフォクトレンダー・カールツァイスレンズは青みがかった色味になりがちです。Lightroomで調整しましょう。
3.どこまで手動化すべきか
フルマニュアルの機種ですと全て自分で決めざるをえないですが、最近のカメラはフルオート撮影可能です。むしろフルオートしか出来ない、マニュアル設定が殆ど無理なカメラのほうが存在している数が多いかと思います(携帯のカメラとか)。
絵に自分の意図を出来る限り組み込み、絵に影響を与えにくい1要素だけを自動化する絞り優先AEという撮影方法が最も使いやすいと感じます。
シャッタースピード優先は、スポーツ撮影というモードが出来る前の苦肉の策な気がします。
「モード」という言葉を使いましたが、風景モード、スポーツモード、人物モードなど様々なモードが搭載されているカメラが殆どです。
これらのモードは、上記2.で示した要素を被写体に最適な範囲で自動調整する機能です。
それぞれの要素が絵に与える影響がわかっていればオートのモードなど使わなくても自分ですべて決められます。
また、JPEG書き込み時の絵の調整もそれらのモードに最適化して行われます。
RAW撮りして後からデジタル現像するのが前提であればJPEG部分は無意味です。
むしろ、高機能なカメラこそRAW撮りしなければそんな高級カメラを使う意味が無いです。
JPEG撮りならばスマホか入門機で十分。
iPhone 5 + Instagram
スマホカメラでもこれくらいの写真が撮れる。
ここまで書いておいて何が言いたいかというと、「極力マニュアルに近づけて撮ろうよ」って事です。
これら要素を出来る限り自分で決めた後にフレーミングしてシャッターを切る。
一番おもしろいところを自動化して何が楽しいの?と(スポーツ写真は例外。タイミング合わせの連写ゲーですね。)。
ただ視界を思った構図で切り取るだけも有りっちゃ有りですけど、それ以上に写真に自分の意図を介入させたくないですか?って事です。
思考停止はイマジネーションの停止でもあります。頭を常時使ってないと良い作品は生まれないと思います。
「感覚だけでやったので、考えてやったわけではない」とか、様々な芸術・スポーツのプロが言いますけど、それってすさまじい回数・時間の思考を行った故に身についた「最適条件に至る思考の自動化」なんですよ。
練習を全くやらずに「俺はフィーリングでやるんだ。俺は俺で、他の誰の真似もしたくない、唯一無二なんだ。」とかそれただの中二病ギタリストですから。
生まれ持ってした天才達も凄まじい努力という燃料を使ってその才能をより伸ばしてます。鍛錬しなければタダの人ですよ。
より写真を楽しむために、半自動でも良いのでマニュアル操作で撮影してくれる人が増えることを祈ります。
そうすればフルマニュアルデジタルカメラが増えていく可能性もあるので・・・!
Ver.1.0.0 (2014年5月20日記)